愛書家日誌

- a bibliophilia journal -

1922年のKindle - フィスクの読書機械(Fiske Reading Machine)

 ポケットの中に書庫を!

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本好きが電子書籍の端末を買う理由は「本がかさばるのでなんとかしたい」と「どこにでも全部の本を持ち歩きたい」ではないでしょうか?私も最初は部屋のスペースをどんどん侵食する蔵書増加対策に購入したのですが、そのうち出先で過去のアーカイブを調べられる便利さに気づきました。

15世紀半ばにグーテンベルク聖書が出版されて以来500年以上の間、本は本のままでした。電子書籍が登場する今日までほとんどそのフォーマットは変化していません。この間、本当に人類は何もしなかったのでしょうか?Science & Invention magazineの1922年6月号にこんな記事が掲載されました。「ポケットの中に書庫を」

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 フィスク提督の読書機械

 アメリカ海軍のブラッドリー・フィスク提督が超小型の読書機械を制作したのです。

彼はまず本をポケットにはいるくらいの細長いスリップカードに縮小印刷します。カードは片面に1万語を十分に収めることができました。5枚あれば10万語になり、たいていの本や雑誌をまるごと収容できました(例えばH.G.ウェルズの小説など)。大変な紙の節約になりますね。さらにそれを読むための機械を発明しました。小さな機械にはカードホルダーと目に当てる拡大鏡がついていました。こちらがフィスク提督がその機械を使っている写真です。

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 フィスクの読書機械の詳細スペック

フィスクの読書機械の詳細を見ていきましょう。

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フィスクの読書機械の構造

  • 高さ:約15センチ
  • 幅:約2センチ
  • 厚さ:約6ミリ
  • 重さ;約160グラム

この機械は4つのパートで構成されています。

  1. アルミ製のとても軽いフレーム。スリップカードは縦に長く刻まれた溝に収納されます。
  2. 文字を10倍にはっきりと拡大できる小型レンズ。
  3. この機械の唯一つの可動部である人差し指で操作するローラー。溝にそってカードを動かしカードをレンズ部分に運びます。
  4. スリップカード。10分の1に縮小された文字はレンズ部分に運ばれると元の大きさで見ることができます。

超小型の文字は、タイプや印刷されたものを縮小し、銅型に写真製版されます。そのためこの機械のためにオリジナルの組版をすることはできません。しかし、これまで出たあらゆる本をフィスクの読書機械に利用することができたのです。

フィスクの読書機械の工夫

「この機械を使うと目が疲れないんですか?」というよく聞かれる質問にフィスク提督はこう答えています。「普通に印刷された文字を裸眼で読むのとかわりません。」

その理由は縮小された文字が常に同じ大きさで表示されるためです。レンズの前に運ばれた文字はつねに目から同じ距離を保つように設計されています。また、この機械にとりつけられた目隠しでレンズに当てていない方の目を隠すことで両目を使う疲労が緩和されます。周りが暗くない限り、読書には片方の目で十分だそうです。

フィスクの読書機械を使った読書の結果はすばらしいものでした。レンズをのぞくと120語を一度に読むことができました。デモンストレーションの中でフィスク提督は1分間に230語を読んでみせました。取材した記者に機械をわたすと287語を読むことができたのです。

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フィスクの読書機械の制作には約2年の月日が必要でした。

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#実際のフィスク読書機械の箱とインストラクションガイド

フィスク提督について

フィスク提督は19世紀の終わりまでアメリカ海軍に勤務し、戦略理論で世界中に名を成し駆逐艦にその名をのこすほどの軍人でした。また彼は生涯を通じて発明家であり、在軍中も電波でコントロールする魚雷など様々な兵器を発明しました。1916年に退役した後も発明を続け、その一つが読書機械でした。

フィスク提督はスティーブ・ジョブズのような世界を変える情熱をもった頑固者で、この機械が新しい出版の世界を切り開くと信じていました。しかし、皆さんのご存知のようにフィスクの読書機械はなんの革命も起こしませんでした。

ブログを始めるにあたり、私たちの世界から忘れられようとしているこの発明を記録として残しておければと思いここに記しました。

 

資料

The Maiami News(1926/5/30)

Popular Mechanics(1926/7)